大学で研究してみませんか 東京工業大学工学院経営工学系訪問
TOHO Today高校
進路企画として行っている「大学で研究してみませんか」。今回は、2月13日(水)に、東京工業大学工学院経営工学系を訪問しました。ご案内くださったのは、桐朋高等学校卒業で、現在東京工業大学工学院研究科経営工学系教授の井上光太郎先生です。参加したのは、高校2年1名、高校1年7名、中学3年4名の計12名です。
最初に井上先生にご経歴を紹介いただきました。
先生は、桐朋38期で、高校では世界史の綿引先生の授業に興味を持ち、東京大学文学部に進学。その後、興味が西洋史から経済史へと移り、金融やファイナンスへの関心が高まり、銀行に就職。銀行在職中にマサチューセッツ工科大学大学院に留学し、ファイナンスを専門的に研究。その後、研究者に転身され、慶應大学などで教鞭を執られ、2012年から東京工業大学でご指導なさっているとのことでした。
続いて、東工大の改革についてご説明いただきました。この春の入学生より、学部と大学院を統合・再編成し、6つの「学院」での入試、学修へと変更したことで、学部や大学院の区別を超えて学べるようになるなど、これまでと比べ、学びの選択肢が広がり、フレキシブルな学修が可能になるそうです。
また、東工大、東京医科歯科大学、一橋大学、東京外語大学の4つの大学は連合協定を結んでいて、井上先生のご専門である経営工学では一橋大学との交流があること、大学院の授業は、基本的に英語で行われ、学んでいる留学生も多く、博士課程では留学生が全体の8割を占めることもあること、それとともに、東工大からの留学も盛んなこと、また、東工大は就職に非常に強いことなどのお話がありました。
続いて、井上先生の研究室に所属している大学4年生から、東工大での学習や生活、受験の際の取り組み、ご自身の研究内容についてお話しいただきました。
経営工学のやりがい、強みについて、生徒が質問すると、就職先の限定がなく、いろんな分野に就職できる点、数学や経済はもちろん、文系の分野も含め、さまざまな学習を活用した研究ができる点などを、挙げてくださいました。
再び、井上先生のご説明となり、人生のキャリアパス、キャリアアップの道筋はさまざまで、若いころの挑戦は得るものが多く、失うものは少ないこと。また、勉強は、受験で終わりなのではなく一生続くし、社会に出ると厳しさが増すということを、ご自身の、マサチューセッツ工科大学での経験を通してご紹介いただきました。世界各国から集まる優秀な人たちに劣ることなく取り組むには、深夜3時、4時まで学習することが多々あり、その疲れから、授業でうたた寝をしたことがあった。その際、周囲に衝撃が走るほど、他の学生達にとって授業でのうたた寝はあり得ないとのことだった。大学が学生にハードワークを課す期間があり、そのときは深夜0時に課題が指示され、グループのメンバーで夜通し討議し続けたなどのエピソードを紹介してくださり、人間はこんなにも勉強できるのだと実感したとのお話でした。また、座学で学ぶのは大学受験までで、考えを構築する力は、高い知識レベルの者同士での討論で養われるとして、グループワーク、協働学習の重要性について語っていただきました。
続いて、ご専門の経営工学についてご紹介いただきました。
経営工学とは、生産現場の作業を科学的に分析する生産活動、企業の経営、経済システムについて、数理、経済、管理技術、経営管理の4分野に基づく幅広いアプローチによって問題解決を図るもので、数学を用いた統計分析から、文章・テキストのAIによる個人の趣味趣向の調査まで、多岐にわたる内容に取り組むため、理系だけでなく文系的発想も重要である。そのため、いろいろなことに興味を持ち学ぶ姿勢が大切になるとのお話でした。
さらに、具体的な内容として、ご専門のファイナンスについて教えていただきました。
ファイナンスとは、金銭の、現在の価値と将来の価値を繋ぐものであり、そこではリスクをどう評価するかがポイントとなる。リスクを回避したいと思う人は確実な利得を重視するし、リスクをとる人は高いリターンを期待した選択をする。
投資リターンの最大化は、企業にとっての共通した目的と言えるが、実際に企業がどう行動するかは、最終的な意志決定者である経営者が持つ、リスクに対する個人的なスタンスによる。そこで、経営者を対象に、個人の楽観度やリスクに対する意識を大規模調査した。
それによると、日本の経営者は楽観度が低く、アメリカは高い。リスクをとるかで言えば、日本は回避、アメリカはとる傾向が強い。中国は、楽観度は低いがリスクをとるという傾向がある。日本企業の経営者の安定志向、慎重な判断が、日本経済の活力にマイナスに働いている可能性があり、リスクをとらないことでイノベーションが起きないとも言える。
開成高校の校長がこんなことを言っている。「日本の高校生は世界一優秀だが、大学に入ると成長の度合いがアメリカの大学生に劣るようになり、40歳頃に逆転される。日本企業が持つ『出る杭を打つ』文化の影響だ。今、必要なのは『目利き』の存在だ。かつての名経営者は若手にチャレンジさせ、うまくいっていないと止めるという勇気を持っていた」この話は、『タフなKYになろう』という若者へのメッセージなのだと思う。
生徒が「日本の経営者の姿勢は、現在の経済状況によるのではないか。バブル期はどうだったのか」と質問すると、井上先生のお答えは「バブルの頃も変化はなく、本業でリスクをとってでも利潤を追求する姿勢は弱く、それが逆に、自分の専門外でリスク認識の薄い多角化や財テクと呼ばれる安易な投資に向かわせた」でした。さらに、「国によって、どうしてこうした違いが生じるのか」と質問すると、「中国系アメリカ人の対応は、中国よりアメリカに近い。アメリカでの教育がタフを求め、リーダーシップを育てることに関係している。会議でも、アメリカ人は自分の意見を曲げないのに対して、日本人は落とし所を常に考えている。教育の影響が強いのでは」とご説明いただきました。
その後、井上先生のご案内で、キャンパス内を巡りました。話し合いができるようにテーブルの形が工夫されている図書館に入れていただき、ものつくり教育研究支援センターでは、東工大ものつくりサークル「マイスター」作成の人力飛行機などを見学しました。
ものつくり教育研究支援センターでは、東工大ものつくりサークル「マイスター」作成の人力飛行機などを見学しました。
参加した生徒の感想です。
・将来東工大に進学したいと思っていて、東工大の教授の方のお話を聞ける貴重な機会だと思い、参加しました。先生のお話は大変わかりやすく面白い内容でしたし、大学生の方のお話も聞くことができ、良い体験となりました。(高1)
・私は研究することが好きで、以前から東工大に行きたいと思っていたので、参加しました。東工大のキャンパスがとても広く、研究しやすい環境が整っていることを知ることができ、大学で研究したいという思いがいっそう強くなりました。経営工学についても、これまで何も知らなかったのですが、興味を持ちました。井上先生のMITでのお話や経営工学に関するお話がとてもおもしろくて、勉強へのモチベーションを高めることができました。ありがとうございました。(高1)
・大学の見学をしたいと思っていて、内容も面白そうだと感じ、参加しました。実際に、キャンパスを訪れ、お話も聞くことができ、大学がどういう場所なのかを理解できたように思います。経営工学の考え方が大変興味深く、とても勉強になりました。(中3)
・大学受験を経験した兄から、オープンキャンパスなど大学を訪問できる機会には積極的に参加した方が良いと勧められ、参加しました。東工大は、キャンパスが広く、校舎も思っていたよりもずっときれいで、驚きました。勝手なイメージで、大学は堅苦しいと思い込んでいましたが、全く違いましたし、学食の食事もすごく安くて、とてもおいしかったです。先生のお話で、これからは、理系か文系かなどはあまり関係がないと知り、どの科目もしっかりと取り組まなければと強く思いました。(中3)