大学で研究してみませんか 慶應義塾大学法学部訪問
TOHO Today高校
進路企画として行っている「大学で研究してみませんか」。
今回は、中学入学試験後の休校を活用して、2月4日(火)に慶應義塾大学法学部を訪問しました。ご案内くださったのは、桐朋高等学校卒業で、慶應義塾大学法学部法律学科教授の大屋雄裕先生です。参加したのは、高校3年3名、高校2年3名、高校1年5名、中学3年2名、中学1年1名の合計14名です。
最初に、大屋先生から、慶應義塾大学三田キャンパス内にある、三田演説館をご紹介いただきました。演説館とは、日本最初の演説会堂として福沢諭吉が建てたものです。演説館の前には、福沢諭吉の胸像もありました。
その後、会議室で大屋先生による特別講義を受講しました。
最初に自己紹介をしていただきました。大屋先生は、桐朋中高卒業後、東京大学文科Ⅰ類に進学。法学部を卒業後、同大学院で助手として研究者の道に入り、名古屋大学法学研究科教授を経て、2015年より慶應義塾大学法学部教授として、法哲学を専攻なさっています。著書「自由とは何か-監視社会と個人の消滅」(ちくま新書)の一節は、高校の現代文の教科書に掲載されているとご紹介いただきました。
続いて、「法学部で学ぶこと」をテーマにお話しいただきました。
「法学部で学ぶ内容として、現存する法とその解釈・運用を扱う『実定法学』と、法一般に関する理論的・科学的な研究を行う『基礎法学』とがある。法律を学ぶ=法律を暗記することだと誤解されがちだが、現在施行されている法令の数はすべてを暗記できるレベルではないし、法律は改正され、内容も変わっていく。では、法を学ぶとはどのようなことなのか」
そして、法の解釈・運用の具体例として、『中古ゲーム訴訟』についてご説明いただきました。
そのうえで、「法を学ぶとは」として、
「法律の制定に際して想定していなかった事例に、その法律を単純に適用しようとしても、人々の納得が得られないなどのことがある。その際、事例への対応とその結果において『等しきものを等しく扱う』という、法律家としての正義の実現に向け、法律の解釈によって意味を発見する、創造する必要が生じる。さまざまな立場から考え、説得力のある論理を展開し、社会全体が納得できる対処を生み出す、こうした姿勢が『リーガルマインド』である。その際、最も大切となるのが論理的思考だ。
つまり、法学を学んだ者に期待されるのは、法律の知識ではなく、『リーガルマインド』を身につけることだ。この点で、法学部に向かない人は、『これが正しいと思う信念が強すぎる人』『他人を説得することや、論理的に意見を表明することに関心のない人』『これまで他の人がどう考えてきたのかに対して興味を持てない人』『この社会の運営に興味、関心、責任感を持てない人』である」
とご説明いただきました。
さらに、法律学の特徴と基礎法学の意義についてもお話しいただきました。
「法律の特徴として、法律の解釈に法律家自身も直接影響を受けるということがある。日本の裁判官が下した判決に、日本人である裁判官本人も規定されるわけである。法律家は、システムの内側にいながらシステムの研究をするので、実践的、直接的な面を持つ一方、客観性に欠ける点で、科学と相容れない面を持つ。科学的視点、外的観点から法を研究する基礎法学、法哲学は、法や社会に対して批判的な議論を展開し、法を見直し、改善する役割を担っている。そのため、現存の法が有効に機能せず、社会のコンセンサスが失われた際に、基礎法学、法哲学の重要性は増す。現在、基礎法学・法哲学の必要性が高まっている。その理由の一つがAIの進化で、AIをどう法で取り締まるのかが問題となっている」
続いて、「AIとその法的規律」をテーマにお話しいただきました。
「新たな技術の誕生は、新たなリスクの誕生でもある。だからといって、リスクを過剰に重視すると、開発者の意欲を削ぎ、技術の発展の妨げになる。
AIのデメリットを予防・軽減しつつ、AIのメリットを活かして社会の課題解決を目指す、AI-Readyな社会、AIを有効かつ安全に利用できる社会の構築が求められている」
次に、AIの定義が専門家においても不明瞭であるため、世間でAIとして捉えられているものが複数種類あること、それぞれの具体例と特徴についてご説明いただきました。
その後、AIと法との関わりについてご説明いただきました。
「法は、行為に対する法の制裁が行為後に実行されるため、事後規制にあたるが、制裁の内容を事前に予告するものでもある。予告をすることで、行為者が行為によって生じる結果を予測し、行為を改めることを期待している。ただし、これが機能するには、行為の結果を予測できる予見可能性と、不幸な結果を避けられる回避可能性が補償されていることが必要となる。
ディープラーニングをするAIは、問題に対してAIがどういう思考過程で判断したのかが、開発者・利用者にわからないので、予見可能性が成立しない。さらに、情報システムのネットワーク化によりAIの行う対応の自律化・高速化が進むことで、人間によるコントロールが効かず、回避可能性が低下する。
AIに対する法規制で考慮すべき点は、AIの生み出すリスクに対して、法の効力によって守るべきものの把握と分析を進め、被害が生じた際の対処を検討しておくことがある。さらに、不明確な規制を予告すると技術進歩の妨げになるという認識を持ったうえで取り組むとともに、法による規制が人々の行為をコントロールできるだけの実効性を持っているのかについても確認しなければならない」
具体例として、自動運転に対する法規制での考え方をご紹介いただきました。
最後に、「法システムは一度作って終わりではなく、常に検証し、繰り返し改善する必要がある。こうした視点を持ち、取り組む意欲のある人に法律家になってほしい」とお話しいただきました。
生徒からの質問として、「事後規制から事前規制への転化について説明いただいたが、自らの行為によってどんな規制を受けるのかを予測できず、過ちを起こすことがあるなら、事後規制の方が有効と言えるのではないか」「リーガルマインドには哲学との共通点があるように思う。哲学を法学に持ち込んだことによってリーガルマインドが生まれたのか」「法の制定に世論や政治家が影響を及ぼし、時に好ましくない法が制定されるようだが、法の制定における法の専門家による取り組みが世論や政治家に妨げられてしまって良いのか」などがありました。
参加した生徒の感想です。
・進学先として法学部を調べていたとき、法哲学という分野があることを知り、興味を持っていたので参加しました。法哲学は、内容が哲学に近くプラクティカルな学問ではないと思っていたが、AIの問題とも大きく関係するなど、現実との関わりの深い学問分野だと感じた。第一線で活躍されている教授の方のお話で、今世界がどのように変化しているのかを知ることができ、参加して良かったと思いました。(高3)
・法学部志望なので参加しました。お話の中で「法学部に向いていない人」について説明していただき、先生のお話にもありましたが、高校では法学をほとんど学ばないので、自分が向いているのかを考えるきっかけをもらえました。法学部のこと、AIと法律の関わりなど、興味深いお話ばかりで、大いに刺激を受けましたし、勉強になりました。ありがとうございました。(高2)
・自分は理系志望だが、内容がおもしろそうだったし、文系の知識・理解も持ちたいと思っているので、参加しました。初めて聞くようなお話ばかりで、大変勉強になりました。特に、裁判官は厳格に法を運用するものだと思っていましたが、リーガルマインドを持って、適切に裁いていることとその重要性を知ることができました。法律や法律家の本質を理解できたように思います。(高1)
・法学部がどういうところなのかを知りたくて、参加しました。法について考える機会になり、法学が実に実践的な学問であることを理解できて、将来、自分が進む選択肢が増えたように思います。(高1)
・元々哲学に興味があったのと、荒井先生の助言もあり、参加しました。抽象的な内容の説明で、とっつきにくいと想像していましたが、大屋先生が数多く具体例を挙げながらわかりやすく説明してくださったので、概要を理解できたように思います。哲学に興味があるので、「リーガルマインド」についてのお話が特に心に残りましたし、論理的思考の大切さを実感できました。ありがとうございました。(高1)
・自分の部活の先輩が慶應大学法学部に進学したので、参加しました。法学部で何を学ぶのかについて、イメージをつかめたように思います。素晴らしいお話、ありがとうございました。(中3)
・法学部でどのような勉強をするのか、どういう進路があるのかを知りたくて、参加しました。事前に、法学部では、法律を暗唱したり、法の歴史をたどったり、という形で研究していると想像していましたが、実際は、論理的な思考力を駆使して、適正な法律について考える学問だと知り、興味が湧きました。また、AIに対して、法学はどう対峙するのかについても教えていただき、大変勉強になりました。今日、AIをはじめ、情報技術が急速に発展している中で、改めて法学の必要性とその将来性が高まっていると実感しました。今回は本当にありがとうございました。(中3)
・自分の進路を決めるのに役立てたいと思い、参加しました。法学に対して、興味・関心が高まりました。ありがとうございました。(中1)