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大学で研究してみませんか 東京慈恵会医科大学訪問

TOHO Today高校

進路企画として行っている「大学で研究してみませんか」。
今回は、1学期期末考査後の自宅学習日である7月9日(火)に、東京慈恵会医科大学を訪問しました。東京慈恵会医科大学には、桐朋高校の卒業生3名、桐朋女子高校の卒業生2名が基礎医学の分野で教授・准教授をなさっています。この方々の研究室に訪問し、研究内容について教えていただきました。参加したのは、高校2年生8名、1年生3名の計11名です。また、大学の授業を終えた卒業生1名も顔を出してくれました。

最初に、昨年度に引き続いて研究室訪問を企画してくださった岡部正隆先生からお話をうかがいました。岡部先生は、桐朋高校卒業で、解剖学講座の教授をなさっていて、形態学や進化学の研究に取り組んでいらっしゃいます。
まず、東京慈恵会医科大学について、慈恵医大の歴史と絡めてお話しいただき、病者中心の医療・医学をモットーとし、『病気を診ずして病人を診よ』『医と看護は車の両輪のごとし』をスローガンに掲げていて、研究の点でも、国をリードする最先端の医学研究を実施しているとご紹介いただきました。
岡部先生ご自身の研究内容もご説明いただきました。
「発生の研究をしている。発生において、細胞は分裂、増殖するのだが、その際、元の細胞とは別のもの(骨、筋肉、神経などの細胞)になっていく。このプロセスは遺伝子の制御による。研究の一つとして、魚はどのように上陸をし、陸上の脊椎動物になったのかに取り組んでいて、現存するさまざまな生き物のゲノムを比較し、どの遺伝子の変異により、魚のえら呼吸が動物の肺呼吸になっていくのかなどを研究している」とのお話で、いくつかの事例について教えていただきました。

ご説明の後に、実際のネズミ、魚を使った研究の一端を見学しました。
ネズミを使った研究では、遺伝子を操作して全身の細胞が緑色蛍光タンパク質で光るネズミを作り、臓器移植、例えば骨髄移植をした場合、移植した骨髄がどうなっていくのかを調べるそうです。生徒は手袋をしてネズミを確認し、ライトを当てることで緑に光ることを観察しました。

 

また、ゲノム編集に繋がるものとして、培養室で、培養したネズミの精子と卵子を顕微鏡で観察しました。

続いて、組織のプレパラートを作る方法を数種類教えていただき、さらに、共焦点レーザー顕微鏡とその仕組みもご説明いただきました。水槽に入った遺伝子組み換えをしたゼブラフィッシュを見学し、受精卵を観察しました。

続いて、桐朋高校卒業で、再生医学研究部の教授である岡野ジェイムス洋尚先生の研究室を訪れ、培養室で血液から培養した、ヒトのiPS細胞を顕微鏡で観察しました。

岡野先生から、再生医療の現在と未来についてご説明いただきました。

パーキンソン病や心筋梗塞を例に、iPS細胞による新たな治療法の開発に関するお話をうかがい、現在の医療の進歩と未来の可能性を実感することができました。また、遺伝子の異なる細胞を一つの体に合わせ持つ生物、キメラ動物に関連して、iPS細胞を用いて、人の臓器をブタで製造するというショッキングな研究についても教えていただき、もしブタの脳に人間の細胞が入った、知能の高いブタが誕生したら、その生物についてどう判断すべきなのかといった生命倫理の問題について話題にされ、深く考えさせられました。

その後、昼食を取りながら、岡部先生と岡野先生からさらにお話を伺いました。
両先生から、「医者として必要な社会性が育めるかを考えた場合、大学入試段階では、論理的に思考できる力が重要であり、その力があれば社会性は身につくと考えている。社会性を育む、脳の前頭葉が発達してくるのは10代後半からなので、その前にしっかりと論理性を育んでおくことが大事だ。論理的な文章を作るには、日本語で書くよりも英語の方がやりやすい。そのため、論理性を磨くために英語で論文を書かせようという話題もある」とお話しいただきました。さらに、岡野先生から「スタンフォード大学では、生物学に関する倫理的な問題を議論できるよう、文系の学生にも生物学を必修にしている」「テクノロジーはここ10年間でブレイクスルーを起こしていて、以前は治療できなかった病気にもさまざまな可能性が生まれている。この時代にメディカルサイエンスに取り組めるのは大変ラッキーだと学生に話している」と教えていただきました。
生徒からの質問で、「病気を持つヒトのiPS細胞を培養したら、病気になる細胞にはならないのか」「ヒトのiPS細胞で臓器を作る際、ブタの体内で作るのはなぜか」などの質問がありました。

続いて、桐朋女子高校卒業で、分子遺伝学の教授である玉利真由美先生からお話を伺いました。

先生は、疾患と遺伝子の関係を解明し、患者に対して最適な医療が施せるよう、病気に関係する遺伝子を特定して、治療方法や薬の開発に繋げる研究をなさっています。特に、アレルギー研究10ヵ年戦略の策定に向け、重症アレルギー患者の死亡者数をゼロにすることを目標に、国の研究チームの代表研究者として取り組んでいること、さらに、仕事上の指導者にあたるメンターと出会い、「追いかけたい背中を見つける」ことで、自分の可能性が広がっていくとお話しいただきました。

さらに、遺伝子の塩基配列を高速で読む装置、次世代シークエンサーを実際に見せていただきました。

次に、桐朋女子高校卒業で、分子生理学の准教授で、筋肉の研究をなさっている山口眞紀先生からお話を伺いました。
解剖学が身体の構造を解明する学問であるのに対して、生理学は身体の機能を研究する学問であること、コンピュータを使って、筋肉の動きをタンパク質の動きを基に解析する、分子動力学シミュレーションの仕組みなどについてご説明いただきました。

その後、筋肉の張力に関する実験などを見学しました。

続いて、桐朋高校卒業で、薬理学講座の教授である籾山俊彦先生の研究室を訪れ、脳の神経細胞のシナプスによる情報伝達の仕組みを研究するために、マウスの脳をスライスし、それに電気的刺激を与えて電流の流れ方をコンピュータで解析する様子を見学し、脳内のニューロンを観察しました。

最後に、岡部先生から本日の見学のまとめをしていただきました。
「iPS細胞やゲノムに関する研究は、ダイレクトに人間の役に立つ医療で、基礎研究は、生命の謎解きなど真理の探究をしている。科学を人に役立つテクノロジーにするために基礎研究があり、実際、日本でノーベル賞を受賞しているのは真理探究型の研究である。」「1人の医者を育てるには多くの費用がかかり、大学の授業料だけでなく国からの補助を受けて医学教育は行われている。だからこそ、医学の道に進む上で、国民のための医者であるという自覚を持つべきだ」とお話がありました。
生徒からの質問としては、「医学の研究にかかる費用はどのように支出されるのか」「自分は、医学だけでなく工学にも関心があるのだが、医療への工学の貢献にはどんな可能性があるか」「医師国家試験に合格した後、臨床に進むか、研究に進むのかはどのように決まっていくのか」などがありました。

参加した生徒の感想です。
・大学でどのような研究が行われているのかに興味がありましたし、桐朋の卒業生の方々の活躍の様子を実際に自分の目で見て学べる良い機会だと思い、参加しました。研究室を案内していただき、施設の素晴らしさを実感できましたし、研究の様子や医学部での学びについて詳しく知ることができ、将来のイメージを持つことができました。先生方の講義が大変興味深く、たくさん新たな知識を持つことができました。今後は、今回の体験を活かして、さまざまな物に興味を持ち、探求し、自分にふさわしい進路を見いだせるよう、頑張っていきたいと思います。(高2)

・医学部への進学を考えていて、入学後のことを詳しく知ることのできる良い機会だと思い、参加しました。医学部と言えば“医者”というイメージでしたが、研究による土台があってこその医者だとわかり、自分が医者になれたときの考え方が変わったように思います。実際に、iPS細胞やラットの実験などが見られて、大変良かったです。先生方が患者さんのための研究に取り組まれている姿を見て、自分も困っている人の助けになれる人間になりたいと思いました。貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。(高2)

・最先端の生物研究に関心があり、参加しました。近年話題になっているiPS細胞について知ることができ、大変勉強になりました。自分はまだまだ生物に関する知識が足りないのですが、そんな自分でも理解できるくらい、わかりやすく説明していただき、お話が大変おもしろかったです。ありがとうございました。(高2)

・理学部に進もうと思っているのですが、医学への理工学によるアプローチは、社会に貢献できる一つの選択肢だと思い、医学の現場も見てみたくて参加しました。iPS細胞を作る現場を実際に見て、お話も聞けて、大変勉強になりました。また、生物を学ぶ意義を改めて気付かされました。現場を実際に体験し、研究室の機材なども見ることができ、進路選択の際の重要な資料になると感じています。本当にありがとうございました。(高2)

・進路について考え始めなければと思い、医学に興味があったので、参加しました。先生方の研究内容や研究室の様子を知ることができて良かったです。ジェイムス先生のiPS細胞の研究は、今、一番話題になっているもので、その研究について詳しく知ることができ、勉強になりました。自分も、そんな研究をしてみたいと強く思いました。(高1)

・医学の研究に興味があったので、参加しました。研究内容を詳しく知ることができて良かったです。漠然と抱いていた研究へのイメージが、具体的なものになったように思います。今回は貴重な体験をたくさんさせていただき、本当にありがとうございました。(高1)