―2021年度から新教育課程を導入―

自律的な学習者の育成を目指す
桐朋中学の新たな一歩

2021年度から全国の中学校で新しい学習指導要領がスタートします。桐朋中学校では、このタイミングに合わせて新しい教育課程(カリキュラム)を導入することになりました。導入に向けた検討において、中心的な役割を担われた中学教務主任の中山先生に、新しい教育課程に込めた想い、桐朋生に期待する姿を伺いました。

主体的な学びをさらに追求して、新しい教育課程を導入します

中学校の新しい教育課程をつくるにあたって、2年半ほど前から教員全員で話し合いを始め、内容を整理しては共有し、また話し合ってというプロセスを重ねてきました。かねてから主体的な学びを追求している本校ですが、学びの土台をつくる時期の中学生は、大人の指示を仰ぎながら進めていく「教わる学び」が多くなる傾向がありました。新しい教育課程では、その学習観を転換して、学習の意義を生徒自身が実感できるものにしたいと考えています。

新しい教育課程を通じて目指すもの。それは、これまで以上に自主・自立を重視し、生徒たちが自身をコントロールする、自律的な学習者へと成長することです。生徒一人ひとりが、試行錯誤しながら学習の方法や方略を見つけ、自ら学んでいく人へと成長して欲しいと考えています。そのために私たち教員は一丸となって、授業に工夫を凝らし、生徒たちの学習意欲に刺激を与えながら成長を支えていきます。

中学教務主任 中山 健一

新教育課程で目指すもの 自律的な学習者の育成を目指して 対話と創造

“対話と創造”を大切にしながら、幅広い教養を身に付けてほしい

自らを律して学びに向かう学習活動のなかでは、どの教科でも“対話”と“創造”がキーワードになります。

“対話”は、本校がずっと大切にしてきたことです。中高一貫の教員体制を基本としつつ、高校からの入学者も受け入れ、さらに、幼稚園や小学校の教育環境をもつ桐朋では、入学するタイミングは生徒ごとに異なります。また、中学受験や公立中学校での学校生活など、経験値もさまざま。そのなかで生徒同士が刺激し合い、視野を広げる経験は、多様性を重んじる姿勢につながり、大きな財産となるでしょう。いろいろな人と交わり、対話できるのは幸せなことです。ぜひ中学の時期にも他者との“対話”を経験してほしいと思います。

あわせて、“創造”もすべての教科で重視しています。知識を理解・吸収するだけでなく、生徒たちが自分の考えや思いを表現する機会をより充実させていきます。 例えば、数学では一つ一つの定理を深く理解して応用する力を身につけたり、国語では論理展開の型を学んで筋道を立てて説明できることを目指したりと、単なるインプットに留まらない、アウトプットの方法を模索していきます。そんな中学での“種まき”を経て、高校ではそれぞれの生徒らしい“花”が開くよう、私たち教員は全力でバックアップしていきます。

(左)中学1年音楽:実際に演奏することで得る気付き、また全員で合奏することで他者との連携を学ぶ。
(中央)中学2年家庭科 裁縫:創造性を活かした実習課題として刺し子制作等を行う。
(右)中学2年物理 モーター製作:教室での学びが、どのように世の中へ活用されているのか知り、具体的に把握していく。

この度、新しい教育課程を作成するにあたって桐朋が考える “幅広い教養”についても、教員全員で議論を重ねて見つめ直しました。その際、重視したのは、「学びの主体は生徒である」という点です。特定の分野に偏ったり、受験を過度に意識したりといった学習ではなく、全人的な成長を後押しするという姿勢を改めて確認し、次の5つの領域にまとめました。

桐朋が考える教養主義教科教育における5つの領域

桐朋中学校、高等学校では、
以下の5つの領域で、
学びを深めていきます。

  • 1

    哲学

    もののとらえ方や考え方、
    言語的・芸術的表現の
    方法や手段

  • 2

    数学

    論理的な思考、
    数値データの扱い方

  • 3

    自然科学

    時間的・空間的な
    事象の把握

  • 4

    社会科学

    歴史・文化・社会・
    スポーツの多義的視点

  • 5

    協働を伴う国際的思考

    ITの活用も含めた
    現代社会への関わり

成長に応じた教養を身につけていく学習体験を生徒へ

中学1年生〜中学2年生

全教科の学びを通して「自分」を知り、周りの世界を把握していきます。重視しているのは、考える力をつけること。クラスメイトや教員とのコミュニケーションから、他者の考え、新たな自分の一面を発見する喜びの機会を与えます。

(左)中学1年国語:グループで小説の一節を読み合い、内容や解釈を発表
(右)中学2年体育:生徒間で協力し行うスポーツテスト

中学3年生〜高校1年生

社会と自分の繋がり、接点に気付き始める時期であるため、学びの領域を深く、広く設定します。社会へと意識が向くような校外での学習を行ったり、正面から自分を見つめ直すような課題に取り組んだりします。

(左)中学3年英語:社会的なテーマを取り上げ、英語でディスカッションを行う
(右)中学3年美術:自画像デッサンを通して自分と向き合う

高校2年生〜高校3年生

世の中へ広く目を向け、 「自分の確立」を目指します。さまざまな物事に対して思考を深めていくことで個人の考え方、生徒自身が持つ強みが引き出され、これからの社会で自己実現できる力となります。

(左)高校3年数学:自身の解答をクラスメートへ向けて論理的に説明
(右)高校2年世界史:授業で得た知識をもとに、自らの意見を表明する論述に取り組む

授業外での自走を促すため、週34時間の時間割を設定しました

生徒たちが幅広い教養を身に付けながら自律的な学習者となるためには、授業外でもじっくりと学びに取り組む姿勢を身に付ける必要があります。

そのため新しい教育課程では、週35時間だった時間割を週34時間にしました。これまで水曜のみ7限までありましたが、平日はすべて6限までとします。生徒たちは放課後にクラブ活動に取り組みますので、平日をすべて同じ授業時間とすることで、毎日の生活リズムを整えて、家庭などでの学習に向かうことができると考えています。

また、週34時間となり放課後の時間が増えるため、授業外で行う追試や補習、総合的学習を意図した行事の事前学習、7時限目にあたる時間を活用して行う特別講座をはじめとして、さまざまな形で学習を支える取り組みを充実させていきます。授業以外の時間で、生徒自身の目的に合わせた学習に取り組みやすくするのも今回の変更の狙いです。

中学2年国語:テーマに沿った本を図書館で選び、作文する授業。同じテーマを扱う本を複数読んだ後に自分の考えをまとめる時間を取るなど、思考の基盤となる言葉の力を養う。

新教育課程

 科目1年2年3年
国語国語3339
表現11
文法・作文22
古典22
書写11
社会地理224
歴史224
公民44
数学代数3339
幾何2237
理科物理224
生物224
化学2.52.5
地学2.52.5
音楽2215
美術2215
保健体育3339
技術・家庭2215
英語英語54413
演習123
道徳1113
特別活動1113
合計343434102

2021年度より、中学全学年で一斉に実施します。

(左)高校1年生物:選択制の授業。興味のある分野の学びを深める。
(中央)高校2年現国:自分の考えを板書するなど、考えを発表する場を多く設ける。
(右)高校2年英語:海外の映像を用いた学習など、リアルな英語に触れる機会を増やしている。

「『教えてもらう』から、『自ら考え、動く』生徒へ。社会を創っていく存在になってほしい」

新しい教育課程では、次のような学びを大切にして進めていきます。たとえば、教員から次の授業で学ぶ事柄を伝えて準備を促すなど、生徒に学びのパスをします。受け取った生徒は試行錯誤をしながら授業に向けて学習を進め、授業中に質問するなど、教員とやり取りをしながら理解を深めていきます。こうした自主的な学びを実践し、自らの学習法を見出していきます。

自ら考えて行動する学習によって、「教えてもらう」といった感覚がなくなっていき、自律的な学習者としての意識が芽生えるように導いていきます。私たち教員は、生徒たちの背中を押しながら日々の成長を実感し、少しずつ“学びの補助輪”を外していくのです。生徒が桐朋での学びや生活を通してしっかりと自己を見つめ、「教えてもらう」から「自ら考え、動く」意識を持てるよう、指導していきます。

生徒たちは中学でのこうした経験を経て、高校ではやるべきことを自分で考えられる、自らの学習に責任を持てる自律的な学習者へと成長していきます。友人から刺激を得ながら自分を客観的に分析し、学習の課題を自ら見出し、それらを解決する力を身につけていくのです。それにより、自律的な学習者となった生徒同士の、さらに教員も含めた協働的な学びを通して、“対話”と“創造”を実践し、生徒は、桐朋の考える“教養”を身につけていきます。

そして将来、中学高校生活で養った力を存分に生かしながら、社会を創っていく彼らであってほしいと思います。

※中山健一先生へのインタビュー取材、授業風景の撮影は2020年10月12日に実施いたしました。
(一部のマスクを着用していない教室内での写真は、2020年2月以前に撮影されたものを使用しています)