2022年度 中央委員会議長、高校総務委員長 土田淳真
2022年度、中央委員会議長・高校総務委員長を務めております土田淳真です。この場を借りてご挨拶申し上げます。
昨年末、人気TV番組「徹子の部屋」にて、来年はどんな年になるかと聞かれたタモリさんがこんなことを言っていました。
「新しい戦前になるんじゃないですかね」
いまだ猛威を振るう新型コロナウイルスや、ウクライナ侵攻に端を発する国際的対立も日々ニュースで目にします。SNSがもたらす確証バイアスは、個人を無慈悲に分類し、その範囲内において中庸化します。特定の主義主張の代弁者とのラベルを貼られ、その演者になった者たちがいかに乾いた狂気を帯びうるかは、歴史が証明してきました。自己の信念の放棄が「新しい戦前」をもたらすことは想像に難くないでしょう。一方で、多様な価値観に押しつぶされそうになりながらも既存の世界観からの脱却を目指した戦いを描いた漫画「進撃の巨人」や「約束のネバーランド」が好評を博したのは、現状に対する危機感の表れなのかもしれません。日本全体で見たら、生徒会ですら思考停止に陥っていると危惧されているのもまた事実です。翻って桐朋における生徒会は間違いなく自我を持っている、と断言できます。
生徒会活動の根幹をなす憲法というべき生徒会会則。30年間ぶりとなるその改正が近年の最重要課題でした。そもそもの組織構成から、「も」と「にも」の使い分けまで。70回以上の会議と1000ページ以上の資料のなかで、「生徒のための生徒会」という本義を忘れたことは微塵もありませんでした。ともすると冗長とも思われるかもしれないこの一連の事業に一人たりとも一切の妥協を許さなかったことは、桐朋の生徒会としての誇りを感じます。
「現状に妥協しない姿勢」これこそが、桐朋学園生徒会で代々貫き通されてきた信念です。導入が見込まれているICT機器の使い方に関して生徒間での議論を行い、提言書を提出しました。また、放送形式へと様変わりした生徒総会を少しでも楽しいものにしようと、動画での説明を実施しました。「中央委員会議長が記憶喪失になった件」「ワタベの知らない生徒会の世界」etc.―エンタメ性を織り交ぜたこの試みに対し、生徒から「生徒会を身近に感じられた」との声を頂いた時の充足感は忘れられません。会則改正においても、改正内容・理由の理解促進のため27本の動画を作成し、大きな反響を呼びました。内容もさることながら、構成、脚本、撮影、BGM、編集等全員で成し遂げたこれらのプロジェクトが、我々に飛躍的な成長をもたらしたことは言うまでもありません。
個々の活動範囲が広がり、興味関心が学校の外にも向かうようになった今日、それを許容する空間たるこの桐朋という学校において、次に戦いが来たとしても、それは生徒会が自由の代弁者になるというようなきな臭い正義に満ち溢れたものではないでしょう。そもそも自由とは「美しくて残酷(「約束のネバーランド」エマ)」なのですから。現状に妥協することは、その残酷さから逃れ、ひと時の安らぎをもたらすかもしれません。しかしそれでも、私は、自主の精神のもとに昨年度の踏襲だけでは終わらない生徒会が持続していくことを確信しています。近年においては、その年ごとに中央委員会内部の組織を再構築する、という取り組みが行われています。自らを囲うものを一から見直すことは、副総務委員長の山下君の言葉を借りて言うのであれば「受動的な『体験』を能動的な『経験』に変える」ことへつながります。
「人は、戦うことをやめた時、初めて敗北する」(「進撃の巨人」ミケ・ザカリアス)
タモリさんが指摘した「戦い」と、上記2作品のなかで行われた「戦い」は果たして同じものなのでしょうか。どんなに自分の周りの環境に嫌気がさしても、どんなに現状に居心地の良さを感じても、どんなにいわれのない誹りを受けようとも、仲間とともに議論を絶やさず、自らの意思と信念を貫き通す桐朋の生徒会を、心より期待しています。