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大学で研究してみませんか 電気通信大学訪問

TOHO Today高校

進路企画として行っている「大学で研究してみませんか」。
今回は、夏休み期間の8月30日(金)に電気通信大学を訪問し、Ⅰ類(情報系)メディア情報学研究室とⅢ類(理工系)化学生命工学研究室を見学しました。きっかけとして、2019年度より本校および桐朋女子中高が、電気通信大学と中高大連携協定を締結したことがあります。そのため、今回は初の試みとして桐朋女子中高と合同で実施しました。見学会をコーディネートいただいたのは、電気通信大学アドミッションセンター特任教授の三宅貴也先生です。参加したのは、桐朋中高は、高校2年3名、高校1年2名、中学3年1名の計6名、桐朋女子中高は高校1年7名、中学3年3名の計10名です。

最初に、研究設備センターの様々に設備ついてご紹介いただき、ヘリウム液化機などを見学しました。

 

次に、Ⅲ類(理工系)化学生命工学プログラム教授、石田尚行先生からご説明いただきました。

まず、電気通信大学のご紹介がありました。

 

電気・通信だけでなく、幅広い理工学領域を学べる理工系総合大学であること、文部科学省による研究大学強化促進事業において支援対象となり、さまざまな研究の拠点にもなっているので、優れた研究設備を有していることなどを教えていただきました。

次に、化学生命工学プログラムの説明として、所属されている先生方と、研究内容をご紹介いただきました。その中で、高大連携を行う意義として、「高校生が、大学における化学を知り、研究の様子を見聞きすることで、化学が、高校での学習を遥かに上回る広がりを持ち、発見、発明の可能性を秘めたクリエイティブな分野だと実感してもらえる良さがある」とお話しいただきました。

続いて、「蛍光物質の合成」のデモ実験を見学しました。実験内容は、鈴木(クロス)カップリングの反応に関するものです。鈴木(クロス)カップリングの反応では、パラジウム触媒によって別種の炭素を結合することができ、これにより、高血圧の治療薬や液晶材料など、さまざまな工業物質が製造、開発されているそうです。この合成法の開発によってR.Heck教授、根岸栄一教授、鈴木章教授の3人が2010年にノーベル化学賞を受賞しています。最近の電通大の研究でも、この合成法がさまざまに活用されているとご紹介いただきました。

デモ実験では、紫外線を放射するブラックライトを当てても光を発しない有機物を混ぜたアセトン溶液に、パラジウムを加えて合成し、そこにブラックライトを当てると、黄緑色に発光するように変化する様子、

さらに、それにヘキサンを少しずつ加えると、ヘキサンが水と混ざらない性質を持つため、上層がヘキサンに溶けている有機物、下層がアセトンに溶けている有機物の二層に分かれ、有機物の環境の変化によって、蛍光物質の色が変化する様子を見学しました。

 

最後に、蛍光についてもご説明いただき、蛍光灯の仕組みとして、「蛍光管の両端に電圧を加え流れ出た電子が、蛍光管内にある水銀に衝突すると、紫外線が発生する。その紫外線が蛍光管に塗ってある蛍光物質を発光させることで、蛍光灯は明るくなる」と教えていただきました。また、光は足すこと、引くことができる性質を持ち、この性質をもとに、光の三原色を組み合わせて、テレビやスマートフォンのディスプレイが成り立っていること、さらに、液晶と有機ELの違いについてもご説明いただきました。

生徒の質問として、「蛍光物質が光る仕組みはわかったが、光らない物質があるのはなぜか」がありました。

次に、Ⅰ類(情報系)メディア情報学プログラム教授で、桐朋高校31期の西野哲朗先生からご説明いただきました。

最初に、自己紹介がありました。桐朋には高校から入学され、早稲田大学理工学部数学科に入学、大学院を経て日本IBM株式会社の研究所に勤務した後、いくつかの大学で研究され、1994年から電気通信大学にいらっしゃるとのことです。

続いて、コンピュータサイエンス(情報科学・計算機科学)についてご紹介いただきました。

 

「コンピュータサイエンスでは、コンピュータのハードウェア、ソフトウェアの両方を研究し、科学(理論に当たる内容)と工学(作り方に関する内容)をともに扱っているが、この研究室では、未来のコンピュータ上で実行されるソフトウェアの研究をしている」とご紹介いただきました。

具体的な研究内容として、自然言語処理にあたる「チャットボット(人と会話するような感覚でロボットやプログラムを利用できるもの。例としては、iPhoneのSiriなど)」について、ご説明いただきました。

「対話システムには2種類あり、特定の課題を達成することを目的とするものと、雑談的に対話を続けるものとがある。後者の原点にあたるものとして、1966年にMIT教授のJ.Weizenbaumが開発したELIZAのシステムがある。ELIZAと比較して、Siriなどのシステムは音声認識の精度は向上しているが、言葉と言葉との関係を解析する言語理解、発言の意図の理解の点では不十分と言わざるを得ない。特に、意図の理解について、J.Weizenbaumは『コンピュータには、人の言葉の理解は不可能だ』とし、その理由として『人間もできていないから』と述べている。確かに、われわれも他者の話を100%理解できているわけではない。これらの点により、チャットボットは、相手の発言のうちキーワードを元に対話しているに過ぎない。現在、チャットボットの高機能化を意図して、AIなどの活用が進められている。代表例は、IBMのWatsonというアプリ群で、文の意図を分類する自然言語分類のアプリなどが活用されている。現在、IBMは、コンピュータ本体を作成するのではなく、コンサルティングのできるAIの開発に力を入れており、コンピュータをプログラミングして使うのではなく、あらゆる情報を元にコンピュータに学習させ、人との対話を通じて、人の意思決定を支援できるシステムの開発を目指している」

さらに、初期のチャットボットと現在のものとの能力の違いを、会話例を通してご紹介いただきました。

続いて、図書館案内ロボットとして、現在開発中であるSotaによるデモンストレーションを見学し、

 

研究室の大学院生の方からシステムについてご説明いただきました。

まとめとして、西野先生から「現在の人工知能による対話システムは定型の会話の範囲にとどまっていて、人間同士の対話にはほど遠い状況である。シンギュラリティが話題になったりはするが、まだまだ開発が必要な状況にある。きみたちにもぜひチャレンジしてほしい」とお話しいただきました。

さらに、コンピュータゲームに関するお話では、チェスや将棋などの名人とコンピュータとの対戦についてご説明いただきました。

「以前はチェスをするプログラムを組んでいたので名人のアドバイスが必要だったが、現在は機械学習として、コンピュータに過去の棋譜などの記録を学習させている。ただし、こうした機械学習ができるのは、正解のデータがたくさんあり、統計的に処理できるものだけなので、人生相談など、価値観を伴うもの、個性が必要となるものに対して、AIは何もできない」

また、最近、注目されている量子コンピュータについてもご紹介いただきました。西野先生は量子コンピュータを草分け的に研究されてきた方だそうです。

最後に、大学の選びにおける着目点についてアドバイスいただきました。

次に、情報理工学研究科基盤理工学専攻の助教で、桐朋高校52期の平田修造先生から、「令和からの時代こそ桐朋生が活躍する時代」というテーマでお話しいただきました。

 

まず自己紹介がありました。桐朋中高を卒業後、東京農工大学に進学、大学院を出てメーカーに就職。その後、ジョージア工科大学に留学し、博士号を取得。九州大学・東京工業大学で研究され、昨年度より電気通信大学にいらしたとのことです。平成28年には日本化学会進歩賞、今年は文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞なさっています。

ご自身のここまでの歩みを振り返って、次のようなお話をしていただきました。

「自分には、桐朋中高で学んだ、自主・自由の精神が染みついていると思う。『自由には責任が伴うし、自由の怖さもある。しかし、責任を持って自由を生かす行動をすれば、それは強みになる』と考えている。

現在、分子を反応させて、強く、きれいに光る物の作成について研究をしていて、この技術は、有機ELテレビ、スマートフォンのディスプレイなどに利用されている。

以前の開発は、研究者が経験に基づき、開発方法を考えていたが、現在は、あらかじめコンピュータでシミュレーションした上で、方法を検討しているし、将来は、AIの活用によって、シミュレーションの範囲が広がり、スピードも速まるので、開発が成功する確率は格段に上がっていくだろう。

しかし、より良くAIを活用するには、AIの学習内容を優れたものにする必要がある。学習はデータによってなされるのだから、どういうデータを学ばせるかがポイントになる。そのため、データを確かなものにするには、実験の精度を向上させつつ、その実験値と相関を取ることが可能な計算方法を見出すことが求められ、そこに研究者の力量が関わってくる。

また、以前の教育は、いかに速く解くかが求められ、教わることを中心とする形で行われていた。2000年以降、社会でオンリーワンが話題になり、新しい価値を生み出すイノベーションが重視されるようになったが、教育の世界では新しい方法論が見出しきれず、従来の速く解くという教育から抜け出せていない。従来のやり方の限界が叫ばれている昨今では、教わるのではなく、自分で新たなものを生み出す力を持った人が活躍し始め、注目されている。

桐朋で学んだ自由、自主の姿勢は、人と違うことでも、自分が関心を持てば、積極的に挑戦し、行動する勇気につながる。実際、自分自身も、自分から学ぶ、興味を持って新たなことに取り組むという習慣が自然と身についている。さらに、自由には責任が伴うという意識も強く、やらなければいけない事は行いながらも時間を見つけて数多くの新しい事に挑戦することで、自由に行ったからには何か一つでもいいので斬新な結果を生み出すことで責任を果たそうという意識が高い。そして、もう一つ大切な点として、取り組むことを楽しく感じれば、苦にはならないという感覚も持っている。楽しむ姿勢も、桐朋の自主・自由の中で養われたように思う。このように桐朋の教育には、現代に活かせるポイントがさまざまにある。ぜひ桐朋で良い成長を遂げてほしい」とお話しいただきました。

 

参加した生徒の感想です。

・機械や工学、また、それらのシステムについて興味があったので、参加しました。電気通信大学は、機械系の分野しかないと思っていたので、他の分野もあると知り、驚きました。近年話題になっている「AI」の利点や欠点について詳しく説明していただけたので、大変勉強になりました。ありがとうございました。(高2)

・大学ではどんなことができるのかを知りたいと思っていましたし、内容も興味深かったので、参加しました。大学内の施設を見学でき、実際に研究なさっている方から研究内容を教えていただけたので、将来を考える参考となりましたし、自分の興味も広がったように思います。特に、普段なかなか扱うことのできない物質を使っての実験を見学できたことは、大変良い経験になりました。また、コンピュータサイエンスのお話は、名前を聞いたことすらないものも多く、とても興味深かったです。(高1)

・今までこの企画に参加した中で、情報系の分野の研究は体験していなかったので、参加しました。「電通大」という名称なので、電気通信の研究をなさっていると思っていましたが、ここは総合理工大学で、化学や生物的な研究も行われているということがよくわかりました。AIに関してここまで研究が進んでいるのかとわかり、感銘を受けました。実際にロボットと人との会話が聞けて、良かったです。どの方のお話もわかりやすく、興味深い内容でした。また、研究についてだけでなく、進路についてのお話もしていただき、大変参考になりました。ありがとうございました。(中3)